フィリピンのBPO

フィリピンが世界中からBPO(Business Process Outsourcing:ビジネス・プロセス・アウトソーシング)のセンターとして地位を確立したのは2000年代後半からで、アメリカやアジアを中心とした様々な業種の企業がフィリピンをBPO先として各種のアウトソーシングを行っています。
コールセンター、トランスクリプション、ソフトウェアやコンテンツの開発など多種多様。

フィリピン、BPO産業好調 売り上げ21%増加

BPOサービスで今人気となっているフィリピン。さらにフィリピン経済を牽引しているのもやはりそのBPO産業だという。現地紙ビジネスワールドによると、今年2013年の売上高は前年比21%増の160億ドルが見込まれ、目標額だった157億ドルを超えることが明らかになった。

BPOサービスといっても、データ入力やデータセンター、事業部(人事部や総務部、経理部など)のアウトソースなど種類は多岐に渡るが、その中でもフィリピンの強みは「コールセンター」など音声サービス部門のBPOになり、2010年にはコールセンターBPOにおいてはインドを抜いて世界第一位の人気となっている。フィリピンのBPO産業は現在GDPの約8%を占め、さらに成長は加速傾向にある。

ただ、一方では、BPOサービス産業が急成長し、雇用創出も期待されるものの、需要に見合うスキル・技能を持つ人材が不足している問題が浮き彫りになっている。事業が拡大し成果が上がると、顧客からはさらにレベルの高いBPO業務を委託されるが、仕事をこなす側の人材のスキルや技術が追いつかない。

フィリピン情報技術ビジネス・プロセス協会(IBPAP)のメルカド会長は「BPO産業の成長の勢いを止めないためにも早急な人材育成が課題」と述べた。政府は教育機関と連携して、BPO技術を持ち即戦力となる人材育成を促進するなど、フィリピン経済を下支えするBPOサービス産業の人材不足解消に向けて、さまざまな取り組みが始まっているという。

望まれる投資環境の改善

2010年6月、フィリピンは投資促進計画を発表し、観光、BPO、電子、鉱業、住宅・不動産、アグリ・ビジネス、物流、造船の8つのセクターを重点産業とし、海外からの投資誘致促進を図っている。しかし、海外からの直接投資も他の東南アジア諸国に比べると低調である。
世銀によれば、同国のビジネス環境は183ヵ国中、136位と低く、タイ17位、マレーシア18位、ベトナム98位、インドネシア129位に劣後している(出所:DOING BUSINESS 2012)。投資を許認可する機関が複数あり手続き等が複雑との指摘もあり、また、汚職、不安定な治安、未整備なインフラが投資環境の問題点とされている。
世界的なNGO団体であるTransparency Internationalの調査によると、公的セクターを対象とした汚職レベルで、フィリピンは世界183ヵ国中129位で、こちらもマレーシア60位、タイ80位、インドネシア100位、ベトナム112位に及ばない。但し、アキノ大統領は汚職撲滅に注力しており、汚職については改善する方向にあると言われている。治安も万全ではなく、ミンダナオ問題(武装化したイスラム反政府組織による襲撃等)も解決されておらず、2011年には日系企業が操業するニッケル鉱山が襲撃される事件が起きている。インフラでは特に電力が不足しており、電力インフラの整備は急務とされる。同時に周辺国に比べ高いとされる電気料金を引き下げる必要もある。
中国の人件費上昇やタイの洪水被害(2011年11月)で、日系企業を中心にサプライチェーンの補完拠点の必要性が認識されている現在、海外労働者送金とBPOによる外貨収入を有効に活用し、製造業の基盤構築を図り、生産拠点としての魅力を高めることが望まれる。

BPO/BPM事例

ソフトウェア開発に次いでPEZA(フィリピン経済区庁)認定日系企業の進出が多いのはエンジニアリングサービスです(28社)。エンジニアリングサービスのセグメントでは、日本の主要なエンジニアリング企業、重機械企業の大半はフィリピンに設計拠点を持っていると言っても過言ではないでしょう。最も大きなところは日揮(JGC)で、1,000名を超える規模ですが、その他にも三菱重工、千代田化工、川崎重工、住友重機、三井造船、常石造船などの子会社があります。エンジニアリング設計においては、プラント建設等の施行現場の多くが海外であることから英語の設計書が必要であり、日本語への依存度が比較的低いため、むしろ英語に堪能なフィリピン人が大いに活躍しているのです。その他にもCADを使った設計業務の海外拠点としては、ゼネコンや、住宅建設事業者などがフィリピンの人材を数多く活用しています。

コンタクトセンター/コールセンター

英語が堪能で高い教育(大卒)を受け、陽気でホスピタリティあふれる若年労働力が比較的安価かつ大量に確保できるという強みを活かし、英語圏、特に米国向けのコールセンター/コンタクトセンター分野が、2000年以降のフィリピンのIT/BPM産業のめざましい発展を牽引してきました。

一方、欧米企業とは対照的に、日本向け、あるいは日系企業によるコールセンターやコンタクトセンター事業で大きく目立った動きはありませんでした。これは、フィリピンでの日本語人材の大量確保が非常に困難だからです。国民の大半が非常に親日的で、アニメ、コスプレ、ゲーム、日本料理(最近は特にラーメンやトンカツ)など日本文化の人気も高いフィリピンですが、仕事のために日本語を習得しようという人はかなりの少数派であると言わざるを得ません。日本語能力検定試験(JLPT)1回あたりの受験者数でみると、フィリピンは4,000人弱で、中国の25分の1、ベトナムの4分の1です。

最近(2013年11月)、ベネッセグループのTMJが、フィリピンでは数少ない日本語対応のコンタクトセンターをセブに開設しているガリバー・オフショア・アウトソーシング(GOO)社と業務提携し、日本語対応のセンターを構築すると発表しました。人材は、日本からフィリピンに渡航して就労する日本人、インターンシップを活用した大学生、フィリピン現地人材という3タイプを活用するということです。日本語対応センターとして成功するかどうかが注目されます。

また最近は、日本の企業であっても、日本語を求めず、フィリピンの英語力を活用したコンタクトセンター事業に参入する動きが出てきました。たとえば、マスターピースグループが2013年6月にマニラに開設した英語のコンタクトセンターや、通販企業向けのコールセンターを運営するテレネット社や、オフショアアウトソーシングサービスのサンクネット社(東京)がセブに開設した英語のコールセンターなどが挙げられます。その他にも、グローバル化する日系企業のオペレーションをサポートするため、英語を中心としたコールセンター/コンタクトセンターの拠点としてフィリピンに注目する日本企業による、既存現地企業との資本提携やM&Aを視野に入れた動きが見られます。

ノンボイスのBPO/BPM

成功している先行事例は、やはり英語での業務
フィリピンにある日系のノンボイスBPM業務拠点としておそらく最大規模なのは、コンピュータセキュリティソフトウェアのトレンドマイクロ(日本に本社がある、という意味で日系に分類します)のトレンドラボでしょう。トレンドラボでは、約1,200名のフィリピン人エンジニアが、コンピュータウィスル等のセキュリテイ上の脅威の解析や、対策をパターンファイルに反映させる業務の他、グローバルサポートセンターとして365日24時間態勢でインターネット上の様々な脅威動向を監視/解析しています。

また、日本郵船(株) (NYK Line)と現地企業TDG社の合弁企業であるNYK-TDG eBusinesses社は、フィリピンに約400名の体制をもっており、世界20カ国以上のNYK拠点のB/L (船荷証券)処理、輸出入関連文書処理、ヘルプデスク、テクニカルサポートを行っています。2000年の創設以来、13年にわたって世界各国のNYKグループ拠点のコスト削減を実現して来た実績とノウハウを活かし、近々外部顧客向けのBPOサービスも開始予定との事です。

ニッチな分野でフィリピンでのBPOを成功させている中小企業の事例として、11年前から医学文献の検索・複写サービスのフィリピンへの移管を進めてきているインフォレスタフィリピン社があります。同社は約90人体制で、日本の顧客(主に製薬会社の営業、いわゆるMR)のリクエストに応じ、全世界の医療文献データベースや図書館から必要とされる文献を検索し、リストを作成し、入手が必要な文献については各国の図書館等へ発注、文献を入手、著作権許諾代行処理を行った上で顧客に文書を発送するという業務を行っています。同社の吉田社長によれば、フィリピン人は仕事が丁寧で早く、単純作業の生産性は日本人よりも上、優秀な人材が安価に確保でき、医学情報の検索においては英語ができる方が有利、など、同社業務のフィリピンへの業務移管の様々なメリット感じておられるようです。

もう一つのノンボイスBPO事例として、ソーシャルメディア関連のグローバルサービス拠点をフィリピンに開設したガイアックス社があります。東京を本社とするソーシャルメディアとソーシャルアプリ関連サービスのガイアックス社は2011年、マニラにガイアックスアジアを設立しました。フィリピン拠点設立後3年目となる現在、70名体制となっています。同社では、英語、中国語、韓国語による企業のソーシャルメディアページの管理や監視、ソーシャルアプリやモバイルゲームのユーザサポートを提供しています。フィリピンの人材を活用し、コスト削減を図ると同時にグローバル化する日本企業のソーシャルメディア利用に関わるサービス事業の拡大を狙ったフィリピン進出の事例といえます。

これらの企業全てに共通するのは、業務の全てまたは大半を英語で行っているという点です。日本の顧客に向けて日本語でのサービスや成果物が求められる業務ではなく、世界の顧客に向けたサービス、あるいは日系企業のグローバルオペレーションをサポートするための業務の拠点としてフィリピンを活用しています。このようなシナリオでの、日比間の企業のコラボレーションや、日本企業のフィリピン進出のケースは今後も増えてくると考えられます。

日系資本の動き

フィリピンのIT/BPM産業の雇用者数は80万人を超えています。規模の大きなところでは、1拠点で数千人規模、フィリピン国内だけで10ヶ所以上の拠点を持つ大手は1社で数万人規模を雇用しています。IT/BPM産業の飛躍的な拡大に伴い、これらの事業者が必ず必要とする大規模オフィススペース、ITインフラ、通信サービス、コンピュータ端末、ソフトウェア、人材採用、人材育成などに関わるサービスを提供する周辺産業のマーケットも大きく拡大してきました。

こうした周辺産業へ日系企業の動きとしては、NTT Communications (NTT Com)による現地SI企業との資本提携と、それに続く同社のフィリピン事業の提携先への全面移管があげられます。NTT Comは、フィリピンにおけるコンタクトセンターソリューションの提供能力強化を図るため、2012年5月、フィリピン国内のコンタクトセンター向けシステム構築でトップシェアをもつ現地企業DTSIグループと資本提携しました。その後、2013年2月には、2009年に設立していた100%子会社の現地法人NTT Comフィリピンの全ての事業をDTSIグループに移管し、フィリピン国内事業を同グループの下に一元化しての事業拡大を狙っています。

その他にも、まだ報道発表されていない様々な動きがある模様です。対日ビジネスでは日本語人口の少なさが弱みだったフィリピンのIT/BPM産業ですが、それよりもフィリピンの英語力に注目した動きの活発化が顕著です。2014年も、フィリピンのIT/BPM業界と日本企業との関係がどのような展開を見せるのか、大いに注目されます。



a:1810 t:2 y:2